LIFE STYLE STORY

暮らしの数だけ物語があります

薪ストーブをお使いの皆様それぞれに物語があります。
もちろん全ての人の人生それぞれに物語はあるのですが
特に薪ストーブユーザーには確固たる信念や価値観による裏付けを感じます。
小さなお子様のいるご家族の暮らし、お年を召されたご夫婦の暮らし、
人生を楽しんでいる人、人生を懸命に生きている人
共通して思うのは皆「自分たちの時間を大切に生きている」ことでしょうか。

Everyday & 365day

冬の朝のこと

この冬 初めての氷点下の朝
前日の夜の炎の温もりが、リビングに残っている
新しい薪を炉に入れて、まるで儀式のように着火する
慣れてはいても、毎回ワクワクする瞬間だ
私より少しだけ早く起きていた妻が声をかけてくる
妻は朝食のオニオンスープに使う玉ねぎを食材庫から出しながら笑っている

朝の静けさに包まれた空間に薪の燃える音が響いた

午前6時48分、山の向こうから眩しい光が差し込んできた。
薪ストーブの炎が落ち着いたのを確認してキッチンに向かう
「今日はいい感じ?」妻がきいてくる
「いい感じだよ」応える
不思議なもので、その日の天候や風向きで炎の具合が違うのだ。
この辺りがスイッチオンで温まるファンヒーターとは違うところ
アナログの…というより大袈裟に言えば自然を感じるところでもある

私の密やかな所作の楽しみ

キッチンの収納ラックにいくつか並んだボトルから一つを選んで取り出す
我が家では常時3種類のコーヒー豆を用意している
気分で選ぶレベルのこだわりだ
一つは浅めの焙煎でサラサラした手触りのキリマンジャロ
酸味が強く、あっさりしていてお茶がわりに飲むのに気に入っている
もう一つは逆に深煎りのフレンチロースト
ブラジルベースの豆を油分が浮き出てくるくらいじっくり焙煎したものだ
そしてもう一つはバニラフレーバーを加えたハワイアンコナ
甘い香りが特徴的で、コーヒーが苦手という人にも飲みやすい
我が家ではいつも来客用に使っている

今朝はフレンチローストの豆をミルでペーパーフィルター用に粉砕する
陶器のドリッパーにペーパーフィルターをセットして引いたコーヒーの豆をのせる
ストーブの天板に載せていたケトルから静かに数滴湯をかけて数秒蒸らす
そしてゆっくりとケトルをくるりと回しながら湯を注いでいく
この所作もある意味で儀式に近い
それにしても薪ストーブで沸かした湯はどうしてこんなに柔らかく感じるのだろう
気のせいだよと言われてしまうかもしれない
遠赤外線効果?輻射熱の恩恵?
正確な理論はわからないままだが、心地よく感じていることは私にとっての事実

朝食にオレンジジュースが必須な理由

我が家の朝食にコーヒーとオレンジジュースは欠かせない
もう何年も前のこと
結婚する前の妻は瞑想について学んでいた時期があったのだが
ワークショップの中でネパール人のインストラクターから聴いた話に影響されてだった
「朝は太陽が運んでくる時間 一粒のオレンジを太陽になぞらえて
1日を一杯のオレンジジュースでスタートするのだ」という
そういえば出張先のホテルなどでも朝食のバイキングには必ずと言っていいほど
オレンジジュースがメニューに入っている
このスタイルの起源には諸説あるが、20世紀初頭のアメリカにおいて
生産過剰にあったカリフォルニア州のオレンジ産業に対して戦略的なブランド展開と
販売キャンペーンという戦略的な背景があり今に続いていると言われているらしい
しかしそんな歴史的事実や商売くさい話を妻に主張するよりも
妻の言うように神の与えてくれた太陽のシンボルとして受け入れた方が
なんだかロマンティックで素敵な感じがする
太陽のエネルギーを感じながら気持ちよく1日をスタートすることを大切にしているのだ

パチパチッ…時折聞こえてくる薪のはぜる音
ガチャン!っとポップアップ式のトースターから勢いよくトーストが跳ね上がる音
ザクッザクッと野菜が刻まれる音
コトコトと薪ストーブの上には妻の作ったオニオンスープが湯気を立てる音
我が家の朝は案外にぎやかだ
オニオンの甘い香りが漂っていて食欲をそそる
「今日の最高気温は15℃だって」
「何か羽織れるものを持って行った方がいいかもね」
「今日はプレゼンが2件、ほとんど外出先だな」
「まだ着るものに悩むくらいの陽気だよね」
妻は朝食の後片付けをしながら、壁のホワイトボードのメモを確認している。
今日は午後のワークショップに参加した後、気を許せる友人を招いてアフタヌーンティーを楽しむのだとか。

こんな音と何気ない会話と共に 我が家の朝食の時間が過ぎていくのだ

薪の入手は人のつながりから

我が家では2年に一度くらいの頻度で軽トラック1台分くらいの薪を購入しているが
ほとんどの薪は知人のご厚意で手に入れているものが多い
仲の良い知人が設計の仕事をしており時々建築現場で出てくる端材や廃材を分けてくれる
また別の友人は地域の林業に詳しく時々間伐材の発生情報を提供してくれるのだ
ある時は近所の方が知り合いの家で庭木の伐採を行ったので必要ならあげるよ
と声をかけていただいたこともあった
もらったまきや材木は自分で切るなど手をかけなければならないがそれも楽しみというもの
我が家の周辺には薪ラックが並べてあり常に満杯状態だ

窓の近くのウッドデッキにはすぐに手が届くところに薪を積んであり
定期的に補充しながら古い薪から使っていく
休日は妻と一緒に薪ラックから運び出し使いやすいように並べたり
時には妻が斧を持って焚き付けを作っていることもある
これは日常的に見る風景なのだ

ガレージでの暖気をしながら 
ふと思うこと

儀式という意味ではもう一つある
これも毎朝のことなのだが出勤前にガレージの車のエンジンをかけて暖気することだ
1999年式のミニクーパー
いわゆるクラッシックミニと呼ばれるクルマだ
2年前に一つの決意があった
とても個人的な決意なのだが私にとっては人生の指針ともなる決意だった
「人生を楽しんで豊かに生きよう」
2年前にそんな人生の方針とも言える思いを持った
その思いを持って薪ストーブのあるこの家を建てた。
長年寄り添えるクルマもそのタイミングで手に入れたのだ

もうすぐ人生の折り返しと言われる年齢が見えてきた頃妻と人生の意義について話したことがある
家を建てようと決意するタイミングで嫌でも先の人生を描く必要に迫られた
私も妻も好きなことを仕事に選んでいるのでそれまでの人生に不満があったわけではない
描いていたのはここから先の人生をどう行きたいかという未来のこと
「好きなものに囲まれて慈しむように暮らしたい」
「何気ない日々を大切にしたい」
「自然のものとか空気感とか…人の感性に優しい暮らし」
「手間がかかることに価値を見出せるような暮らし」
「1日の時間や今この時を味わえるような丁寧な暮らし」

私たちが描いた理想の暮らしは
とても有機的である意味面倒臭い手間がかかる
スイッチ一つで全て賄えるような効率を求めるものではないのだ
我が家のキッチンには電子レンジがない
コロッケはじゃがいもをこすところから妻が手作りで行っている
コーヒーは豆から挽かなくてはならないしそれなりに時間もかかる
クルマは毎朝暖気する時間が必要だしメンテナンスにも手がかかる
薪ストーブは定期的にメンテナンスしたり薪割りで汗を流したり楽ではない

それでもかかる手間に変えがたい豊かさを感じている
日々その存在を当たり前にしないもの
それは例えば毎年の結婚記念日を妻と祝い続けるようなものなのだ
クルマが十分な暖気を終える頃 妻が窓から手を振っていた